消えていく生き方があったとしても

西ノ島の島人に衝撃が走った。今までこんな撮り方をしたPVがあっただろうか。撮影したのは、齋藤悠太さん。テレビ通話を通して、運営の大野が映像に込められた想いを聞いた。


スケールが日本じゃないし

齋藤:島前に来たのは3度目で、学生のときに海士町に一度行って、今年のゴールデンウィークに西ノ島に旅行で行ったみたいな感じで、そのときとりました。

普段はドローンとか飛ばして撮ってるんですけど、持ってかなかったんです。一眼のカメラで撮ってみた、みたいな。

大野:ドローンの撮影は、観光協会がもうやってたんですよ。その映像しか、今までの西ノ島のPVとしてなかったんですよね。

齋藤:西ノ島って超映えるじゃないですか!スケールが日本じゃないし

大野:スケールが日本じゃないといいますと?

齋藤:単純に大きさですかね。摩天崖とか200メートルくらいありますよね。(摩天崖:日本一高い崖、高さ257メートル)

僕結構いろんな島行ってるんですよ。伊豆諸島の神津島とか、八丈島、あと青ヶ島。そういった島は結構好きで、海外の島に行ったりもしてるんですけど、小さい島が多いんですよ。八丈島は結構大きいですけど、西ノ島みたいなあそこまでのパキッとした高低差はないんで。そういった景観はすごい好きですね。

あとは、放牧してるのはやばいっすよね!

大野:放牧してるところってあまり無いですか?

齋藤:放牧してるところないですよ!

道にうんち落ちてるとか全然ないですもん!

大野:えぇ~!今まで島ってどこも放牧してるものかと思ってました(笑)

齋藤:ちょうど最近、馬の専門学校の映像を撮ってたんですよ。それで、西ノ島で車乗りながら撮ってたら、馬がいて「馬いんじゃん!撮りて~!」となりまして。撮るとき、いる場所とかも結構こだわりましたね。馬って自由に生きてるから、日によって、時間帯によっていろんなところにいるじゃないですか。その中でも、どの瞬間が、「うお!すげえところに馬がいるんだな」ってなるかなって考えながら撮りました。


言葉にできない寂しさがあるじゃないですか

大野:映像の中ですごい印象的だったのが、最後に港から離れていくとき手を振ってる子どものシーンですね。あれ、あえて最後に入れてるんですか?

齋藤:そうです。ちょっと寂しさ出そうと思って

大野:そうそうそう!あの瞬間ね、隠岐で生きてきた自分は「あ~、わかる!」ってなっちゃうんですよ。

齋藤:やっぱそうですよね。Y(人名。大野の中高の後輩。島在住)とN(同じく後輩)と仲良くて、島行った時も一緒に釣りとかして、最後も見送ってくれたんですよ。他の島に行っても、そこの島の人と仲良くなって最後に見送ってくれるとかあるんですけど、あの瞬間って言葉にできない寂しさがあるじゃないですか。出身の方なら僕以上によくわかると思うんですけど、あの瞬間の気持ちを表現したいなと思いました。

大野:すごい…す~ごいわかりました!あれは! この瞬間をよく撮ってくれたなって思いましたもん。

齋藤:今回のは景色ベースでしたけど、本当は島の人をいっぱい映し出したいなって思ったんです。実際島の人ともめっちゃ触れ合って、色々お世話になったんですよ。でも、人を撮るとなると許可を取らないといけないので、、今回はあくまで旅行として行ったので、気楽に撮影したいなと思って、人は撮らなかったんです。

大野:そうですね。SHIMA探究(StarTripの前身)や、まだ名前のない食卓(同じく)にこれまで来てくれた人たちも、結構写真や映像を取り残してくれたんです。その中でも、やはり人との出会いを大切にした人の写真や映像はなんか違うんですね。で今回の映像を見て、人とふれあってない人が取れるはずがない映像だなと感じました。そこが、この映像を見たときのうれしさでしたね。

齋藤:ありがとうございます。


もう少し島の人と接したかったな

大野:この島に来て、もっと知りたいと思ったことや、また見たいと思ったことって何ですかね?

齋藤:もっと深く島の人と接したかったなっていうのはあります。

僕が島好きっていうのもあって、将来、海の近くに野外シネマができる宿泊施設兼映画館みたいなのを作るのが夢で、それをどこにするかっていうのをずっと考えてて、だからいろんな島回ってるんです。

ただ、島の中にも、歴史というか、今まで生きてきた人、生きてる人がいて、それは島によって、人の特徴とか、大切にしてることがいろいろあるじゃないですか。世界観も島によって違う。だから、それぞれの島がどういう考えを持った人がいるのかっていうのは、すごい知りたいなって思いましたね。

今回そういった話はなかなかできなかったんです。結局、「景色よかったー。思い出できたー。」ってだけじゃなくて、そこで出会った人の想いや会話もプラスされてすごい記憶に残ると思ってて、そういった意味でもっとコミュニケーションとりたかったっていうのはあります。


生き方がひとつひとつ消えていっている

大野:僕の話を少ししてもいいですか?

齋藤:どうぞ

大野:さっき、「もっと人と接したかった」っておっしゃってたのもあるんですけど…

どんどん消えていくものってあるんですよね。時間が流れているからっていうのもあるんですけど、人が減っているからっていうのもあるし、生き方がひとつひとつ消えていっているって感覚が、帰ってきてからすごい感じるんです。

西ノ島は、地形的に地区ごとにポコポコと別れている特徴があるんですね。それが、この島の素晴らしい面を作っていると思ってて、地区ごとに全く性格が違っていて、そこにある仕事ごとに全くコミュニティや文化が異なる。地区ごとにも、仕事ごとにも、あるいは立場ごとにも全く異なる色がある。

齋藤:そうですね。

大野:だからこそ、島の中で生き方を選べるっていう、すごいメリットがあるって思ってたんですよ。でも今、端っこにある地区から限界が近づいているわけですよね。むこう10年20年で、このままだと確実に消えていく地区があって、確実に消えていく仕事がある。一つ仕事が減って、一つ地区が減れば10や20の生き方が消滅するっていう風に思ってるんですけれども、それは僕は仕方がないことだと思ってるんですよね。

ただ、生き方一つ一つが素晴らしいことは確かなので、少しでも何か形に、記憶に残せたらなって

齋藤:わかります!その考え方、めっっちゃわかります!

活動にかかわる人たちの想いとかって、その人が死んじゃったりとかして、時間がたつにつれ、忘れ去られるのって、本当に何か…寂しいなって思ってて。僕が映像をやっている一つの理由としては、そういうのを少しでも残していけたらっていうのがあるんです。

大野:どんなにそれを守ろうとしても、死ぬタイミングとか病気するタイミングって止められないですよね。だから時間は全く待ってくれなくて。でもその瞬間を、なんか形に残せれば、その部分はとっておくことができるので、だからこういう映像に残してくれたのはすごい嬉しかったですね。人は主に写ってなかったとは言えども、人の生き方の断片がちゃんと込められてたから。

僕は、映像を撮る人間ではないですけど、僕はStarTripといった旅の企画を通して残すっていう手段に出てるし、高校生のゼミとかをやって高校生たちが島の活き方を盗むっていうのを進めてます。

齋藤:いいっすよね。StarTrip。


最後に

大野:今後の作品もすごい楽しみにしてます!南米とかの映像も撮られてますよね!あれも見させてもらいました。

齋藤:ありがとうございます。あれは2週間同行してガツっと作りました。

大野:今日は本当にありがとうございました。会えてよかったです。

齋藤:こちらこそ。これから大野さんは西ノ島にったらいらっしゃるって感じですか?

大野:そうですね。大体います。

齋藤:じゃあ次行くとき連絡します。

大野:頼ってくださればどんどん紹介しますね(笑)


この島の未来は、今は明るいとは言えないかもしれない。それでも、今を大切に、一歩一歩生きてる人がいる。その一歩一歩、残したものひとつひとつの小さな輝きを記憶には残すことができる。それは、まさに斎藤さんの映像だったし、これまでのAMAワゴン、SHIMA探究、まだ名前のない食卓にきた参加者一人一人が持ち帰ったものだった。

「僕たちはここに生きている!」その声を聴きに来てくれる人がいる限り、僕たちの生き方はきっと光を失うことはないだろう。


(映像:齋藤悠太  写真提供:齋藤悠太・芳賀新・伊藤圭那  文:大野希

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8月に開催される「StarTrip in OKI」は、島の人の生き方(仕事やライフスタイル)を超短期で体験することができる旅です。⇒エントリーはこちら

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